『マイルス・デイヴィスの真実』 小川 隆夫 感想
私にとってのマイルス・デイヴィスの入り口は『ビッチズ・ブリュー』だった。
大学生の時にポストロック的な音楽を聴くようになり、それらに影響を与えたロック以外のジャンルに興味を持ち、同じような音楽趣味の友人に借りて聴いたのが最初だったと思う。
そこから遡って『カンド・オブ・ブルー』などのモードジャズの頃なども聴くようになり、ジャンルとしてのジャズも聴くきっかけとなった事を思えばエレクトロニック期から入ったとはいえやっぱりマイルスが私にってはジャズの入り口となったアーティストだ。
マイルス・デイヴィスの真実と謳った本書はかなり分厚く(600ページ程)手に取った時は読み切れるか不安だったが、いざ読み始めたらあっという間に読み終えてしまった。
著者自身によるマイルス本人に対する複数回のインタビューや各時代に関わったミュージシャンなど多数の証言を基にマイルスの音楽キャリアが時代を追って綴られている。
文章の切り口としてはいわゆるジャズ評論的な内容は薄く(各時代の評論家からの引用は一部にあるが)、どちらかといえばマイルスを中心にしたモダンジャズの壮大な大河ドラマを見ているような雰囲気だった。
この本で感じたマイルス・デイヴィスという音楽家のモチベーションはどんな時代であっても「常に新しい音楽を生み出す」ということだった。
いつも今までにない表現を探るマイルスの音楽はきっとリアルタイムで聴いていた人たちにはスリリングな体験だったに違いないと思った。
そして常に新しいものを追求するプレッシャーにさらされたマイルス自身のストレスや孤独を感じさせる言葉がインタビューの中から時折漏れてくる箇所や、著者とマイルスの個人的付き合いからの逸話(突然の雨にマイルスが傘を持って迎えに来るところなど)がレコードや評論からはわからない一人の人間としてのマイルス・デイヴィスのキャラクターを魅力的に描いていて「ジャズの帝王」と言われる偉大な人物を読者に身近に感じさせてくれる部分で良かった。