『口語訳 遠野物語』 柳田国男 佐藤誠輔訳 感想
この間読んだ『アメリカン・ブッダ』に収録されていた『鏡石異譚』に遠野物語がテーマとして取り上げられていて興味を持った。
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原典を少し読んでみたら文語体で読解するのが難しそうで読みやすくしたものは無いのかなと調べてみたら本書が見つかった。
明治40年頃に柳田国男が収集した岩手の遠野地方に伝わる話を紹介する民俗学の先駆け的な本で古典の扱いをされている本。
登場するのは山男に山女、天狗や狼、狐に幽霊など日本に古来から伝わる不思議な話がたくさん紹介されている。
柳田が実際に聞いた時代にはこれらの話は数年から古くても数十年前の話で、登場する人物たちも何処の誰々、もしくは誰々さんの爺さん婆さんの話となっており、「昔々の~」で始まるおとぎ話的なものではなく、(当時の)現在と地続きの話として語られている。
読んだきっかけがSF短編であるからだろうか、この本も明治日本を舞台にしたSFやホラー、オカルトのショートショートといった感じで読む事が出来た。
ひとつひとつの話も短く(1ページも無い話が多い)、昔話やおとぎ話のようなオチや教訓めいたものは無く、ただただ不思議な(怖い)体験談が綴られる。
特に興味深かったのが天狗や山男・山女などの人の姿かたちをした「人ならざるもの」が登場する話。
山深い場所で遭遇するそれらのものが暗示する産鉄民などの漂流民や一部に住んでいたとされる外国人など、当時のこの世の世界には住むことを許されなかった人々の”あちら側”の世界と一般的な農民たちの住む”こちら側”の世界が交わる時に産まれる物語。
歴史の授業で習うことはないが間違いなく存在した”あちら側”の世界が、明治に実在した人たちの口から語られる話の向こうに透けて見えるという構図が面白く、歴史書だけに残されたものだけが本当の歴史ではないのだなということを気付かせてくれる本だった。