~この世界を素晴らしく~

本を読み、映画を観て、音楽を聴き子供を育てる。「どこにでもいる誰でもない私」の日常の記憶。

『ワイルドサイドをほっつき歩け ハマータウンのおっさんたち』 ブレイディ みかこ

 

 

 

去年話題になった『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』で今のイギリスの子供たちを書いた著者による今のイギリスのおっさんたち(ベビーブーマー世代)のエッセイ。

 

戦後のベビーブームに産まれ、サッチャーやブレアの時代を生き抜き、現在のブレクジットに翻弄される50~60代のおっさんの今の姿を描いている。

 

前作の『ぼくはイエローで~』で初めて作者の著作に触れた時にも感じたのが、文章表現が圧倒的に自分に合う。

 

90年代のほとんどを洋楽オタクのようにして過ごしてきた自分には、音楽好きがきっかけで英国に渡り、音楽ライターの経験もある作者の文章に登場するたくさんのバンドや曲のタイトル、歌詞の一部などを使った表現がいちいち心に響く。(そもそもこの本のタイトルからしルー・リードの有名曲へのオマージュだ。)

 

そんな親近感満載の文章で自分に近い世代が書かれているので各エッセイ登場するおっさんたちにものすごくシンパシーを感じてしまう。

 

『ぼくはイエローで~』で取り上げられていた表現で言うと前作のこども世代の話はやはり自分には世代格差がありすぎてどこかでエンパシー(共感能力)的なものが必要だったけど、今作は圧倒的にシンパシー(共感)の方だ。

 

もちろん私は世代的にはいわゆるジェネレーションX世代にあたるのだが、この本の2章でも指摘されているように今作のメインとなるベビーブーマーに近い世代のせいか彼らの感覚もたいへんによく理解できるし、また自らの近未来の姿にも思えてしまう。

 

そして階級意識というものはたぶん無いが、社会が新自由主義から緊縮財政へ向かおうとしているこの日本に住むけっして裕福ではない日本のおっさんとしてはこの本に書かれることが自分の国の未来の事ではないかとも考えてしまう。

 

だからこの本には同世代感としての共感と同時に自分も彼らの様に社会から疎外されたり切り捨てられたりするのではないかという恐怖感も感じる。

 

この感覚は前作の分断や格差の中をたくましく生きようとする子供たちに感じたある種の羨望のようなものとは対称的だった。

 

それでも絶望感を感じないのは彼らおっさんが自分たちの現状をシニカルにとらえながらもどこかで諦めずにしぶとくサヴァイヴしようとする姿に「それでも生きねば」といった励ましをもらったような気がして救いを感じた。

 

 


Fatboy Slim - Praise You [Official Video]

 

作中でおっさんたちが半ケツでダンスするときに流れている曲。

これ流行ってた時はクラブでベロベロに酔ってたなぁ...20年くらい前。